橋本玲子さんはサッカーチームの横浜F・マリノス、ラグビーの三洋電機ワイルドナイツ、フリースタイルスキーの上村愛子選手などの栄養アドバイスを行っています。本日は、実際のスポーツ栄養の現場状況をおうかがいしました。


● 様々なスポーツによる栄養指導の違いは?

 バランスのとれた食事をしっかりとるという基本はどのスポーツでも同じですが、スポーツによるエネルギー必要量が異なります。たとえばフリースタイルスキーの女子選手であれば、一日約2500kcalを必要とします。しかし、海外でのトレーニングや試合が多いうえに、練習で疲れて帰ってきあとに自炊しなけばならないため、いかに手早く栄養価の高いメニューを整えるかを提案します。また、3度の食事で補いきれない場合には、補食をどのタイミングで食べたらいいかをアドバイスするなど、選手のライフスタイルに合わせてきめ細かく食事計画を立てていくのが大きな違いです。

● 横浜F・マリノスの栄養指導に携わるようになったキッカケは

 10年前、知り合いの横浜F・マリノスのコーチから、合宿や遠征のメニューの内容を見直して欲しいといわれたことからです。

● 勝つためのスポーツ栄養とは

 サッカーのトップ選手の場合1日約3500kcalは必要と言われています。そこで、まずはエネルギー不足にならないよう「食べられる体」をつくることです。若手選手の中には、食が細く、好き嫌いが多い選手も少なくありません。また、激しいトレーニングや遠征などで過密スケジュールが続くと、食欲が低下し、コンディションを維持するために必要な栄養が取りづらくなります。トップの選手の中には20代半ばを過ぎると、体力の低下や疲労回復の遅れを感じる人もおり、バランスのとれた食生活と休養が欠かせないことを意識するようです。
選手の栄養管理は、入団時に3日間の食事調査や食生活アンケートを実施し、まずは自分の目で栄養状態を把握してもらうことから始めます。また、コンディションを管理する際の指標として、フィジカルコーチが定期的に測定している体重や体脂肪率の変化などを照らし合わせながら栄養アドバイスをしています。
集団のセミナーは選手たちの集中力が続かないため、やはり一対一で個別指導を続けていく必要があります。週1回クラブハウスを訪問し、ロッカールームなどで歩いている選手をつかまえては最近の調子を聞いたりするなかで、栄養の相談にものっています。ケガをしたときなど、どんなものを食べたらよいか、最近疲れやすいけれどといった質問をきっかけに食事の話をしています。あまり食生活を意識していない若手選手には、先輩選手から注意してもらうのも効果的な方法の一つです。

● 食事をとる環境整備が重要

 横浜F・マリノスでは1年前からクラブハウスに食堂が出来、プロサッカー選手に相応しい「アスリート食」を提供しています。仕出し弁当をとるなどしていたときに比べると、バランスの良い食事を適切なタイミングで出せるようになりました。食堂が出来る以前は、夏バテをする選手もいましたが、昨年はほとんどの選手がコンディションを崩さずシーズンを乗り切ることが出来ました。

● チームワークの重要性

 管理栄養士がいくら一人でがんばっても選手の食生活はなかなか変わりません。チームワークでの指導が重要となります。選手の生活全般に目を配っているフィジカルコーチ(選手のトレーニングメニューや体調管理などを担当)、メディカルスタッフ(選手がケガをした場合のリハビリテーションなどを担当)と情報を共有し、常に相談しながら仕事を進めることが大切です。

● 小学生、中学生からの食育が重要

 ただし、20歳をすぎてから食生活を変えるのはなかなか難しく、もっと若年のうちから食育を行う方向に変わりつつあります。

 横浜F・マリノスにはトップ選手を頂点として、ユース(高校生)、ジュニアユース(中学生)、プライマリー(小学生)から成る下部組織と、この他にも3000人ちかいスクール生がいます。
現在、横浜F・マリノスで実施している食育と一般の食育との違いは、サッカーと栄養という観点から話をする点です。子どもたちは強くなりたいという目標があるため、トップチームで活躍する中澤佑二選手、山瀬功治選手はどういうものを食べているといったことを話すと、目の色を変えて話を聞きます。バランスのとれた食事の基本的な考え方や、練習前後の補食の取り方、疲労したときになにをどう食べたらよいかといったことを説明しています。

 また、保護者を対象にした栄養講習会も毎年開催しています。やはり親がきらいなものは食卓にならばないため、まずは親の意識改革が必要だからです。料理の工夫をすることで、かなり好き嫌いをなくすことができます。また、ライバルが食べているのを見たり、合宿で仲間と楽しく食事をするなど、ちょっとしたきっかけで好き嫌いはなくなることがあります。

 数年前まではすききらいがあっても注意されれば食べる子が多かったのですが、最近は、きらいなものにはまったく箸をつけないこどもが増えてきています。また、食も細い子が多くなっているのも気になります。あまりにも恵まれすぎた状況になっているためでしょうか。まさにこうした子ども達に食育を行うことが今は必要です。日本全体の大きな問題ですね。


スポーツ栄養関連情報

 本誌でご紹介した田口素子さんらが設立した、特定非営利活動(NPO)法人「日本スポーツ栄養研究会」は最先端のトップ・アスリートたちとスポーツ栄養の現場に関わり、その学術研究と専門家となるべき「スポーツ栄養士」の育成活動をしています。
(参照:www.jsna.org/index.html
 また、財団法人・健康体力作り事業財団では「健康運動実践指導者」、「健康運動指導士」を養成しています。現在3万人以上いる資格修得者たちは、生活習慣病を予防し健康水準を保持、増進する役割を担い、フィットネス,トレーニング・スポーツジムや各種福祉機関の運動施設で活躍しています。
(参照:www.health-net.or.jp
 本テーマに関連する専門書を収載した「生活・健康・栄養図書総目録2008」、「スポーツ・健康科学書総目録2008」がございます。ホームページも開設しておりますのでご活用下さい。


www.seikatu-kasei.com/

www.spotai-pub.net/

橋本玲子さんのプロフィール

 幼少から海外で12年間生活。二葉栄養専門学校卒業後に管理栄養士資格取得。2000年4月に栄養コンサルティング会社(有)橋本玲子ダイエットコンサルテーションズを設立。プロサッカーチームや社会人ラグビーチームの栄養アドバイスほか、翻訳活動、講演活動など幅広く活躍。

スポーツ栄養関連書籍のご紹介
出版社名
書名
編著者名
本体価格
南江堂 テキスト健康科学 編集:佐藤祐造・竹内康浩・田中豊徳 2500円
南江堂 運動処方の指針ー運動負荷試験と運動プログラム(原書第7版) 編集:ACSM
監訳:日本体力医学会体力科学編集委員会
3500円
光生館 栄養と運動と休養(その科学と最近の進歩) 飯尾雅嘉・小林修平 編集 3600円
女子栄養大学
出版部
スポーツ選手の栄養&メニューハンドブック 橋本玲子 著 1600円
女子栄養大学
出版部
スポーツ栄養ハンドブック ナンシー・クラーク 著
辻秀一・橋本玲子 共訳
2000円
建帛社 環境・スポーツ栄養学(管理栄養士講座) 金子佳代子・万木良平 編著 2400円
講談社 NEXTスポーツ・運動栄養学 加藤秀夫・中坊幸弘 編 2600円
講談社 食べて勝つスポーツ栄養の基礎知識 齊藤慎一 編 1200円
講談社 新版 これでなっとく使えるスポーツサイエンス 征矢英昭・本山貢・石井好二郎 編 2000円
化学同人 あなたのエクササイズ間違っていませんか?
運動科学が教える正しい健康メソッド
桜井静香 著 1500円
第一出版 アスリートのための栄養・食事ガイド 小林修平・樋口 満 編著 2400円
朝倉書店 スポーツと栄養と食品 伏木亨・柴田克己・横越英彦 他著 3200円
朝倉書店 運動と栄養と食品 伏木亨 編 3000円
朝倉書店 競技力向上のスポーツ栄養学 トレーニング科学研究会 3800円
医歯薬出版 小児のメディカル・ケア・シリーズ
子どもの健康とスポーツ
浅見俊雄・村田光範・大槻文夫 共著 1900円
医歯薬出版 普及版 運動・生理・生化学・栄養
図説運動の仕組みと応用
中野昭一 編 3800円
医歯薬出版 運動生理・スポーツ医学・栄養
図説運動・スポーツの功と罪
中野昭一 編 5200円